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「9条全国行脚の旅へ」

《お寺の庫裏、鬼山憲志と若い住職が話しをしています。住職は心理学を専攻していましたが、 父親が死去したためお寺の跡を継いで住職をしています。》
憲:いえね。こんなこと知り合いに相談できゃあせんし、変に相談して変に思われても困るけえのお。
住:ここはそんな心配はありませんよ。
憲:誰かに伝わることはないじゃろうか。
住:ここで話されたことは誰にも知られる心配はありませんから。安心しておっしゃって下さい。
憲:首が切れとるんじゃ。
住:・・・・首が・・・・・・・・・切れて・い・る ・・・。
憲:たしかに頭も胴体もある。じゃが実は首は切れとって、頭が胴体に乗っかっとるだけなんじゃ。もちろん、そなんことがありえんことはわかっとる。でも、何かのはずみで、頭が地面に落ちるんじゃあないかと心配なんじゃ。
住:いつも心配なんですか。
憲:そうじゃ。

*憲志はそう言うと、両ひじをついて治療者の方へ前のめりになる。すぐにはっとして頭を支える。

憲:あぶないところじゃった。
住:よ〜くわかりました。それで、いつからそうなったんですか。
憲:15年ぐらい前からかのう。女房には息子をつれて出て行かれて、会社の調子が悪くなってきたころからじゃ。そしてとうとう会社は倒産してしもうた。
住:そうとうなストレスがあったようですね。
憲:ああ、火事や地震や津波や台風が一勢に襲いかかつてきたようじゃった。 
住:でもまた何で首が切れてる感覚なんですかね。
憲:それがわからんからここへ来とるんじゃ。それを見つけてくれるんが先生じゃろう。住:それはそうですが、私も千里眼ではありませんから。出きるのは鬼山(憲志)さんが見つけるお手伝いだけなんですよ。
憲:金払うてわしが見つけにゃあいけんのんか。まぁええ 。見つかるんならそれでもええ。
住:首が切れていることについて、何か思いあたることはありませんか。
憲:う〜ん。そうじやのう。片手に日本刀を持った男が、もう片方の手に生首をぶらさげとる夢を見るんじゃ。
住:その日本刀を持った男が鬼山さんですか。
憲:・・・・・あれ。・・・・・そのようにも思えるし・・・・・。う〜ん、でもどうも、生首のようじゃがのう。

*憲志、自分の生首をひっぱりあげる。

住:まさか過去に首を切り落とされた・・・ことなんてありませんよね。
憲:首を切り落とされて今生きとるわけないじゃろう。
住:そ、そうですよね。その夢はいつごろから見ていますか。
憲:小学校へ行く前から見とったのお。
住:5才のころにはその夢を見ていたんですね。ほかにこの夢について思いあたることはありませんか。
憲:ないのう。

*憲志、うなづく。あわてて頭を支える。

住:そうですか。それではストレスのことをお聞きします。これまでのストレスの中で一 番大きかっ たのは何ですか。
憲:そうじやなあ。やっぱり会社の倒産じゃな。わしが一代で築きあげた会社じやけえのう。
住:倒産前後、いろいろなことがあったでしょうね。
憲:そりゃあ、いろんなことがあった。従業員も整理した。「何でぼくが首にならなきゃあならないんですか」と詰め寄るヤツもおったよ。じゃが「役に立つ従業員の首を切るバカはおらん。首を切られるのはお前が役立たずだからじゃ」と言うてやったんじゃ。倒産した時は取引先のやつらが押しかけてきやがった。それまでおべっか使ってたヤツらが言いたい放題、悪態をつきやがった。そして一文無し。山のような補償債務。ストレスがないわけがないじゃろう。
住:人を解雇するのも大変なストレスでしょうね。
憲:いや、それほどじゃあない。つまらんヤツの首を切っただけじゃけえ。ヘッヘッヘッ。住:そ・・・そうですか。では次に大きかったストレスは何でしょうか。
憲:ガンじゃなぁ。会社が倒産した一年後にガンになって入院したんじゃ。社長の時なら 大勢見舞いに来たんじゃろうが、来たのは数人だけじやった。
住:それでお体の方は大丈夫ですか。
憲:ああ、放射線治療で何とかなった。ガンじゃけえ完治とは言えんけどな。
住:ご心配ですね。
憲:心配といやあ心配じゃが。治療のすんだガンより困っとるのは首の方じゃ。
住:はぁ、そうなんですか。ほかにストレスで思いあたることはありませんか。
憲:う〜ん。まあ、そんなところじゃ。
住:・・・・。あの・・・・・。奥さんが息子さんをつれて出て行かれたとおっしゃった  と思うんですけど・・・・。
憲:あっそうじゃった。そういやあ・・・・それもストレスじゃなあ。うん、息子の憲男  が登校拒否になってのう。女房が心理療法士に相談したんじゃ。そうしたらその心理  療法士がわしに来てくれと言いやがったんじゃ。冗談じゃあない。わしゃあ家族のた  めに一生懸命に働いとるんじゃ。女房の子育てがしっかりしとらんからこうなったんじゃろうが。わしゃ、心理療法士なんぞのところには・・。あっ、どうもすみません。  住職さんのことじゃないんで・・・ 。
住:いえ、かまいません。先をどうぞ。
憲:そんなこんなで、とうとう女房は息子をつれて出て行ってしもうた。その後は離婚じゃが。
住:つらかったでしょうね。
憲:そりゃあ、女房と子どもを失ったんじゃけえのう。じゃが、わしにゃあ傾いた会社を建て直す責任があったけえ、あんまり沈んどる余裕はなかったんじゃ。
住:・・・そうですか。それで奥さんや息子さんと関係をとりもどすお考えはないんですか。
憲:・・・はあ。・・・そんなこと考えてもみんかった。あれだけ愛想をつかされたんじゃけえ、だめじゃろう。
住:・・・ さっき鬼山さんは「家族のために一生懸命働いとるんじゃ」とおっしゃいましたが、今なら何かできるのではありませんか。
憲:そう言われりゃあそうじゃが、・・・ま、ゆっくり考えて見るよ。
住:そうですね。もう時間も来ましたし、今日は終わりましょう。

《憲志 仏壇の前で手を合わせる》
憲:親父や母さんの前で手を合わせることなんてなかったな。あれ。

*憲志 仏壇の中に何か見つける。

憲:あれ。これ手紙じゃないか。なになに「憲志へ」。えっ、
手紙:「憲志、この手紙書いていいのか悪いのか今も迷っています。同封した写真は誰だかわかるかね。私は鬼だったんだよ。きっと死ぬと思っていた。それで終われると思ってた。
 でも生還してしまった。そして広島で被爆した。だが正直いって被爆してよかったと思ってます。被爆を私への罰だと思えば何もないより救われる。
 日本国憲法の公布の記事も同封します。嬉しかった。私にとって戦争放棄は、私に殺された人々への贖罪のように思えたんだよるところが朝鮮戦争が始まり、私に悪夢がよみがえってきた。夜中に目を覚ますと憲志の髪をつかんで立っていた。
 怖かったろう。寝てる最中突然、髪の毛をつかまれて引き上げられるなんて。でも、このことを謝ろうとすれば、この写真まで説明をしなければならなかった。それはそれで、憲志を傷つけてしまうような気がして、ずつと迷っていたんだ。
 憲志ねおまえは中国での反日デモを見て「日本が列強を 追いだしてやったのに、日本を逆恨みするとはひどいやつらじゃ。何もかも日本を悪者 にしやがって」と言っていたね。そうじゃないんだ。列強を追いだしたあとの日本の方 がもっとひどいことを・・・・」。
憲:あれっ、汚れてて読めないぞ。
手紙:「お前は戦争を体験していない。だからねどうしても、私たちが犯した罪を引き継 げとは言わない。だが、私たちが何をしたのかは、知っておいて・・・」 あっ。

*憲志 頭を支える。

手紙:手紙で申し訳ない。お前に死んでしまってからで、さらに申し訳ない。すまない、憲志。

*同封された写真:軍人が片手に日本刀、もう片方の手に女性の生首をぶらさげて
写っている。軍人は憲志の父である。
*憲志 片手に刀を持ち立つ。その顔はニヤニヤしている。

住:そうですか。生首の夢は実は夢ではなかったわけですか。
憲:そうなんじゃ。でも生首の夢も見とった。生首の夢は親父が死んだあとも見とるし・・・。あっ昨日もみたんじゃが、それがどうもへんなんじゃ。
住:変とはどのように変なのですか。
憲:その・・・・生首をぶらさげとる男がわしなんじゃ。
住:そうですか。何か思いあたることはありませんか。
憲:特には・・・何も。でもその男になってみて、親父がとんでもないことをしたんだと心底感じたよ。でも当時、軍人は人の心をもっとっちゃ いけんかったんじゃけぇのう。そう思うこと で忘れたことにしているヤツも多い・・・。おっと(頭を支える)。
  じゃが親父は死ぬまで悔やんでいたんじゃ。わしゃ、今までそのことを知らんかった。 親父のやったことは悪いことじゃが、死ぬまで悔やみ続けたのは誠実じゃったと思うんじゃが。
住:そうですね。私もそう思いますよ。
憲:じゃが、何で生首をぶらさげとるんが、わしなんじゃろう。
住:そうですね。鬼山さんは人の首を切り落とすようなひどいことは何もしていないんですからね。
憲:わしが切ったのは従業員の首ぐらいのもんじゃ。首を切ってニヤニヤしとったのは・・・わしじゃ。わしなんじゃ。親父は首を切ったがあとでせ死ぬまで悔やんどった。が、わしは  ・・・わしは親父よりひどい男じゃ。
住:つらいでしょうが、何かに気づくことは鬼山さんにとっていいことなんですよ。
憲:気がついたら、あの夢見なくなるとは決まっとらんじゃろう。
住:それはそうですね。お父さんはやったことについて悔やんでいらしたようですが、謝罪はされていないんですね。
憲:そうじゃが何か。
住:お父さんのかわりに、あやまったらどうですか。
憲:死んだもんにあやまれるわけないじゃろう。
住:できますよ。今晩一人で、部屋を暗くして、写真の女性を心に呼びだして、そして声に出してあやまるんです。
憲:ふ〜ん。ま、やってみるよ。

*憲志は部屋の中で写真を見て、眼を閉じている。
*憲志 写真を見る

憲:ごめんなさい

*憲志 横になり眠る。憲志 写真を見る。

《夢の中》
中国人女性:許します
憲:えっ、そんなに簡単に。
中:いろいろ思いはあります。それでも、心から謝罪するなら許します。それに許すのは、私のためでもあるのでする
憲:私は60年以上憎しみの塊となつて、この地上をさまよってきました。一瞬たりとも喜びを感じることもなく・・・。終われないんですよ。許せないと。1946年日本国憲法が公布され、日本は二度と戦争をしないと誓いました。それで許せるかとも思いました。でも、一言「ごめんなさい」が聞きたくて地上わさまよっていたのです。今、 やっと許すことができました。ありがとう。
憲:ありがとう?この私にありがとう?首を切ってニヤニヤしていたこのわしに・・・。

*憲志 土下座する。落ちそうな頭を支える。

憲:ごめんなさい。元従業員たちよ。女房よ。憲男よ。許してくれ。本当にごめんなさい。  第二次世界大戦で日本の犠牲になつた人々よ。ごめんなさい。今日本は憲法9条を捨て、戦争をする国になろうと・・・ 。おっとっと(頭を支える)。わしは日本の代表者じゃない。じゃが、一人の日本人として許しをこう。ごめんなさい。親父、許されたんだよ。戦争放棄と「ごめんなさい」の言葉で許されたんだよ。

*憲志 はっとする。

憲:今、憲法9条が葬られようとしている。やつと許された親父はどうなる。わしは・・・ わしは今まで憲法のことなど何も考えずにきとった。戦争なんて本当に起こることはないじゃろうし、犯罪にまでならん程度に、金もうけしとりゃあええと思うとった。  このまま放っておいたら憲男が生首をぶらさげるかも知れんのじゃ。

*憲志 眠る

《お寺の庫裏》
憲:夢の中で血の池地獄の前にたつとったんじゃ。池の水面はずいぶんと深うて血のにおいが・  ・・・ 。(鼻を押さえる)
住:それでどうなさいました。
憲:昔のわしならすぐ逃げとったな。
住:どうして逃げなかったのですか。
憲:わしを突き落とす鬼はおらんかった。でもな、わしゃあ血の池地獄におちにゃあいけんのじゃ。そんな人間なんじゃ、わしは。そこで血の池地獄へ飛び込んだ。
住:どうなりました。
憲:闇の中を落ちていくうちに閃光で目がくらんで急に明るくなって、それで水面にすいこまれていったんじゃ。水はとても澄んでいて、水面を通して青空が輝いているんじゃ。息苦しゅうないし、冷とうもないんじゃ。
住:あなたは心の底に飛び込んだのかもしれませんね。
憲:心の底?。
住:ええ、心の底は血の池地獄かと思ったら、以外なことに、とても澄んでいた・・・。
憲:ふ〜ん。それから池から岸に上がってみると、日本国憲法が歩いとったんじゃ。
住:憲法が歩くんですか。
憲:うん。憲法はあたまじゃった。首が切れて、胴体が両手で頭を支えながら歩いとった。
住:胴体の方は何なんでしょう。
憲:さて・・・。意味があるんかのう・・・・。憲法が頭なら、胴体は日本国民かの。憲 法を根づかせることができんかったんじゃ。首の切れたわしと同じじゃ。
  そのあとわしは都会に行ったんじゃ。そしたら目にするみんな、首が胴体から離れとるんじゃ。ただし手でささえてはおらんかったのう。その時わしは憲法9条の旗を持って歩いとった。
住:胴体から離れてるのに、どうして頭が落ちないんですか。
憲:頭が軽そうじゃった。重さがないけえ、ふわふわと浮かんで胴体についていっとるんじゃ。
住:それは何なんでしょう。
憲:はじめは夢なんかでたらめだと思うとったが、今はそう思わんようになったよ。この目に見えている世界が歪んどるんじゃ。でもその歪んだ世界を歪んだ目で見とるけえ、まっすぐに見えるんじゃ。実は日本人はみんな夢のとおり、頭と胴体が・・・。
あっ(頭を支える)
住:頭と胴体というのは、心と身体のことかもしれませんね。それとも意識と無意識。あ  るいは理想と現実。もしかすると私も頭と胴体が・・・・ (頭をさわつてみる)
憲:そうなんじゃ。あなたも頭と胴体が・・・あっ(頭をささえる)
住:頭と胴体が切れている・・・ 鬼山さんの感覚と似ていますね。
憲:頭と胴体が切り離されとるんなら。つながにゃあいけんのお。
あっわかった。夢の中で9条の旗を持ってあるいとる意味が・・・。ハッハッハツ
住:実は私も夢を見たんです。鬼山さんが旗をもって旅立つ夢でした。

*治療者 立つ

住:大丈夫ですか。本当に行くんですか。
憲:うん。9条の旗を持って歩いて日本縦断じゃ。いや、旅をするのは9条なんじゃ。わしゃ、胴体、9条を運ぶだけじゃ。わしゃー一文無しで、組織も何もない。宿も食事も行く先々の人々の善意にすがろうと思うとる。わしゃ、何も信じとらんかった。誰も信じとらんかった。じゃが今は信じられるような気が・・・あっ(頭を支える)   
会ったこともない行く先々の人々を。日本国憲法前文を読んでいて、そう思ったんじゃ。世界中の人々と信じあい、赦し合っていきましょうと呼びかけとるんじゃ。「日本国憲法は国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓う」と結んどるが、一体いつ全力をあげた。首のきれたわしといっしょなんじゃ。  そして「日本国民は」なんじゃ。わしゃ日本国民じゃないんか。つまらんにんげんじ ゃが日本国民じ。声が聞こえてくるじゃろう。「君、国家の名誉まで背負えとは言わ ない。すべてを失ったと思っている君よ。わずかだけでも良心が残っているなら、やれることを・・・あっ(頭を支える)という声が聞こえてくるじゃろう。」

日本国憲法 前文

 日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起こることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法はかかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。

 日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。

 われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。

 日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ

第二章 戦争の放棄
第九条【戦争放棄、軍備及び交戦権の否認】

 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
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